新聞掲載記事

2004年1月23日 「働く。」第一部 サバイバル工場(20)

仕事は駅伝のよう。会社と地域の未来へ”たすき”つなぐ

「最近は練習不足だったけど、やっぱり走ると気持ちいい」。―一日、天草郡倉岳町であったマラソン大会。五キロコースを上位でゴールした西本昭広さん(46)=同郡松島町=はマラソン仲間と何度も握手を繰り返した。
 電子制御部品(リレー)を生産している天草池田電機=同町=の製造四課長。社会人スタートと同時に走り始めたから、ランナー歴は二十八年になる。今も年に数回、マラソンや駅伝大会に参加する。六年前には、結婚二十周年を記念してハワイのホノルルマラソンも完走した。
 リレーの心臓部、コイルの生産ラインを統括するのが仕事だ。主力製品のリレーに組み込むほか、単独製品としても出荷している。コイル生産では社内一のベテラン。「コイルのことが分かる人を」という親会社の要請で、オムロングループや海外生産工場に何度も技術指導に出掛けた。
 社歴を重ねるごとに海外生産の拠点は拡大していった。危機感はあったが、「国内の技術レベルが負けることはない」と自分に言い聞かせた。「まさか、自分の工場がなくなるとは」。一年半前、今の会社の前身「オムロン天草」の閉鎖に落雷を受けたような衝撃を味わった。
 コイルの特徴は、リレーに比べて部品点数が少なく構造がシンプルなところ。「海外工場の生産が軌道に乗れば、海外シフトはさらに加速するかもしれない」
 町代表駅伝チームのマネージャー役。仕事を終えた後、ストップウォッチ片手に練習に付き合うこともある。過疎化が進み、選手集めに苦労するようになった。「二、三十代がいない。四、五十代は余っているんだが」。職場が少なく、地元に若者が残れない。雇用の場として地域の企業が生き残ることは、地域の未来をつくることにつながると思う。
 「マラソンは自分との闘い。駅伝はみんなの協力が勝負を決める。例えるなら、仕事は駅伝に近い」。力を合わせ、会社と地域の未来へ”たすき”をつなぐ。サバイバルレースは続く。
(報道部・岩瀬茂美)
=第一部終わり

「熊本日日新聞」

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