新聞掲載記事

2004年1月8日 「働く。」第一部 サバイバル工場(7) 

品質勝負しかない。「悪ければ仕事がこなくなる」

「コテの移動距離を調整しよう」。品質保証課長の太田真司さん(54)=同郡大矢野町=が声を上げた。天草池田電機=天草郡松島町=の工場の一角で、太田さんら三人が「はんだ付け工程」の不具合解消をテーマに話し合っている最中だった。
 国内の工場が生き残るには品質勝負しかない。「海外製品はもう『安かろう悪かろう』ではない。技術はぐんぐん追い上げられている」と太田さん。その危機感が日常業務を支えている。
 太田さんの重要な日課の一つにメールチェックがある。職場の机に帰るたびに何度もパソコン画面に見入る。品質に対する発注先からのクレームを、いち早く処理するためだ。原因を探り、回答しなければならない。
 クレーム件数の増減は天草池田電機に対する評価の尺度ともなる。「品質が悪ければ仕事が来なくなる」。取引先への品質保証を担う責任者として、今年はクレーム件数を数年目標からさらに20%減らすのが目標だ。
 同社の主力は、電気製品のオン・オフを制御する「リレー」と呼ばれる部品。”接点が命”のリレーにとって、異物混入は致命傷になる。それでも「樹脂くずや繊維くずなど異物の付着は、どこで発生するかわからない」と太田さん。
 原因の解明と対処療法―。品質向上の実現は、生産現場と連携しながら”いたちごっこ”の日々だ。製品の検査体制を何重にも敷き、QC(品質管理)サークルなど複数の品質改善活動も展開している。「すべての成果が即出るわけではない。ただ品質への意識改革につながればと思う」
 約三十年前。太田さんには熊本市からUターンして働いていた工場が閉鎖された経験がある。大手メーカーの協力工場だった。同僚ら十数人が創業したばかりの天草立石電機(のちのオムロン天草、天草池田電機の前身)に移った。
 「当時は若かったし、雇用も厳しくなかった。今は簡単に企業誘致できる時代ではない。この会社を守り、育てていかなければならない」。生き残りへの挑戦が続く。

「熊本日日新聞」

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