新聞掲載記事

2004年1月22日 「働く。」第一部 サバイバル工場(19)

生き残るための人材育成。「それが地域企業の責任」

「なぜ、この会社を志望しましたか」「この会社でつくる製品を知っていますか」。高校生に向かって矢継ぎ早の質問が飛んだ。昨年末、天草池田電機=天草郡松島町=の一室。この日は、今春卒業予定の高校生の採用面接。七人に緊張した顔が並んでいた。
 「地元で働きたかったから」。高校生らは口々にそう答えた。不況の風はまだ厳しい。面接官を務めた総務課長の永木達也さん(47)=松島町=は「天草に若者を多く残したいが…」。全員を採用する体力はない。
 一年半前、天草池田電機は電子制御部品(リレー)を生産するオムロン子会社から、新会社に生まれ変わった。賃金などの条件は悪化したが、ほぼ全員が雇用継続を希望した。「年老いた親や学校に通う子どもがいたり、住宅ローンを抱えていたりで、簡単に天草を離れることはできない」。永木さん自身も同様の事情を抱えた一人だ。
 松島町出身。長男だった。中学生のころ父親を病気で亡くした。高校を卒業後、地元で就職したのは必然の道だった。
 入社十九年目。総務畑を歩き、「裏方」として工場を支えてきた。新会社では総務の人員は削減され、草刈や空調機清掃などにも追われる。コストダウンで、外注の仕事を見直したためだ。
 「『勝ち組』と『負け組』に厳しく選別される時代になった」。そうした時代の中で、失ったものもあるような気がする。「自分たちの生き残りに懸命で、職場を去る同僚を思いやる余裕がなかったかもしれない」
 見送った同僚には、忘れられない顔がある。この十数年間の合理化で、従業員は半減した。生き延びるために人員削減を重ねた。「今は生き残るために、新しい人材を迎えることができる。それがうれしい」
 社員の平均年齢は約三十八歳。採用抑制で”高齢化”がじりじりと進んだ。近く同僚となる若者たちは、職場に活気をもたらすだろう。「地元の人材を育成することが、地域の企業の責任。地域全体の活性化にもつながる」

「熊本日日新聞」

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