新聞掲載記事

2004年1月13日 「働く。」第一部 サバイバル工場(11)

量産化の道は開けた。あとは「知名度を上げたい」

昨年末の夕暮れ時。百貨店の外商営業マンと面談していた天草池田電機=天草郡松島町=の池田博嗣社長(56)=同郡姫戸町=は、商談を終えてやおら小さな四角い物を取り出した。
 初のオリジナル商品「るすばん君」だった。「この防犯ブザーはロック機能付きが特徴。かなり反響が出てますよ。ひとつ試してみませんか」
 商品の説明は次第に熱を帯び、商品開発担当の松本勇さん(36)=同郡松島町=も駆け付けて本格的な解説が始まってしまった。「実家につけてみます」。数十分後、売り込みに来たはずの営業マンの手に「るすばん君」があった。
 「るすばん君」を売っているのは県内の二販売代理店と、インターネットで開拓した県外のセキュリティ会社だけ。販売実績は千個余りにとどまっている。ブザーの部品調達に課代があり、量産化が難しかったためだ。
 しかし、ブザーを中国・浙江省の工場で委託生産することが昨年末に決まり、量産化の道が開けた。今後は、ホームセンターや商社などへの売り込みを本格化させる方針だ。「昨年は種をまいた一年。今年は果実を収穫する年にしたい」と松本さんは意気込む。
 松本さんは昨年末、会社のホームページを立ち上げた。「防犯ブザーといえば、うちの会社が検索できるようにしたい」。自社ホームページの最新ニュースには「るすばん君販売開始」と書き込んだ。
 オムロン子会社の社員から、新会社の一員となり、痛感するのは知名度の低さだ。「まだ天草池田電機の社名は、ほとんど知られていない」
 ただ、以前の仕事はオムロングループ内でほとんど完結していたが、新商品開発に取り組むようになって行政や研究者との接触が増えた。「初対面の相手でも気持ちを込めて話せば必ず伝わる」と思うようになった。
 商品や会社の説明をしながら「自分自身の仕事が問われている」と実感する。生き残りをかけた挑戦を通して「自分自身が一番、変わったのかもしれない」。

「熊本日日新聞」

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