新聞掲載記事

2004年1月14日 「働く。」第一部 サバイバル工場(12)

ヒラメキは会社の宝。「商品化に結びつけたい」

天草池田電機=天草郡松島町=の工場から離れた別棟に、全社員の期待を背負う部屋がある。「新商品開発室」。主は開発プロジェクト課長の松本勇さん(36)=同町。同社のたった一人の開発担当者だ。「会社の未来への責任がずしりと重いと感じる。でも、新しい仕事を見つけなければ、生き残れない」
 松本さんの日課は社員通用口に置いた箱の中身を確認することだ。「ヒラメキ宝箱」。一昨年十月から、社員全員に対して新商品開発のアイデアを募集しているのだ。
 「修正液付きボールペン」「料理用泡立て器の改良」。日常生活の中で気づいたアイデアが、メモに書かれて投かんされている。中には、社員の家族の名前で書かれたものもある。
 同社主力の電子制御部品(リレー)は、コスト競争の激化で海外へ生産シフトが進んでいる。独自商品開発は、新たな収益源を探る試みだ。
 一昨年秋にスタートした新商品開発プロジェクトチームは「どんなアイデアも批判しない」だけがルールだった。「それでも、最初は意見が出なくて…。会社でも家でも必死で考え続けた。嫁さんに『何か日常で困っていることはないか』と聞いたり」と松本さん。
 会議を重ねて、ようやく実を結びそうなアイデアが誕生した。その一つ「ソーラー式車の霜取り装置」は。くまもとテクノ産業財団の助成対象事業にもなった。ほかにも、商品化を待つ研究テーマがいくつかある。
 「ただ実現性を追求すると、コスト面なので厳しいことも多い。商品開発のノウハウの蓄積もなく、毎日が試行錯誤の連続」。昨年秋、オリジナル商品第一号となる防犯ブザー「るすばん君」の商品化を達成したが、これも量産化や改良などの課題が残っている。
 一月上旬、「ヒラメキ宝箱」の中に今年初のメモを見つけた。「こうして会社の将来を真剣に考えてくれる人がいる。この『ヒラメキ』こそが会社の宝だと思う。何とか商品化に結び付けたい」。ヒラメキの後押しが。松本さんを勇気づける。

「熊本日日新聞」

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